-ダンジョン探検ガイド-理論編-
The Guide for Dungeon Exploration - part 1
ズハケース著
目次:理論編
1. 序文
2. ダンジョンとは?
3. ダンジョンの構成
4. ダンジョン内で遭遇する罠
5. ダンジョンボスの部屋
目次:実践編
6.ダンジョン探検のコツ
7.ダンジョン探検の必須アイテム
8.理想的なパーティー構成のためのアドバイス
9.終わりに
1. 序文
世の中には2種類の人間がいる。古代人の遺産が詰まったダンジョンに入り、危険を冒して未知の世界を探検する者と、快適な町の片隅に閉じこもってダンジョン探検を馬鹿にする者。
ダンジョン探検をしないことを悪いことだとは言えない。しかし、ダンジョンのことをよく知らないままに危険なダンジョンへと挑む冒険者が、一攫千金に目がくらんだ強欲者と見なされることになってしまえば、これは問題である。弱腰な若者の不甲斐ない考え方が当たり前になってしまうからだ。私はこうした現実について考えるうち、これまで私がダンジョンを探索してきた経験から、ダンジョンを正しく理解するために役立つものを推理することが必要だと思った。
ダンジョン探検とは、最近の若者がよく言うような、無意味な危険行為などではない。遠く離れた地に住まう他民族の中には、ダンジョンに入り特定の課題を達成することを成人の儀とし重要視されていたほど、己の肉体的、精神的な限界に挑戦し、大人としての自分の能力を確かめることである。
本書は、勇気ある若者はもちろん、ダンジョンに興味のない若者にも気軽に目を通してもらい、ダンジョンへの理解を深めることができるよう書かれた。もともと本書は1冊にまとめて書かれたものだったが、これだけの膨大な情報を含む規模の本を出すことは、編集や組版の難しさから予想外の様々な問題を引き起こし、結局「理論編」と「実践編」の2冊に分けられた。まずは読者諸君が現在目にしている本編「理論編」を通読したうえで、実際にダンジョン探検へ出かけたいと思ったなら「実践編」を一読することをお勧めする。きっと大いに役立つことだろう。
たとえ「実践編」を読まなくとも、この本を通してこれまでベールに包まれた場所として認識されていたダンジョンを表に出し、多くの若者に興味の対象として取り上げられ、ダンジョン探検に対する視点を変えてもらえれば、筆者としてはこれ以上望むことはない。
-常に知恵を与えてくれる、ズハケース
2. ダンジョンとは?
ダンジョンとは?
ダンジョンとは厳密な意味での洞窟とは異なる区域である。
モイトゥラ戦争以前からポウォールと人間との長い戦いの間、幾度となく人間を脅かした疫病や魔族から住民を守るための手段が必要であり、その中で最も一般的なものがネベド族が最初に作ったとされる地下避難所であった。人々はそこを[ラフ]と呼んだ。
元来この言葉は「堅固に建てられた王宮」を意味していた。しかし、ネベド族がポウォールとの戦いを繰り広げる中で時として王が避難していたことも少なからずあり、それによっていつしかラフは地上と地下を包括する要塞というイメージが形成された。
ラフの中で最も有用な形状は、地下へ潜り込むように伸びる逆さの塔の形。通常、その内部構造は迷宮のようになっており、外部より侵入してくるポウォール族の行く手を阻み混乱させるために様々な物理的・魔法的な仕掛けが施されている。このようなラフの建造は非常に困難であり、人間はポウォールとの戦いの最中にも短時間で多数のラフを建造するべく、魔法的な存在を喚び出してはその力を借りてきたという記録も残っている。
また、このようなラフの建造では効率化という点において主に小さな規模の洞窟や土窟の掘削から作業着手されたが、これは後に洞窟とダンジョンが混在するきっかけにもなった。
魔法の力によって長年続けられたラフの建造・拡張のレベルは、およそ常人の想像が及ばぬ規模へと引き上げられ、それにより多くの人々が内部で迷子になることすらあったという。
これは時の経過とともにラフの避難所としての機能を著しく低下させる結果をもたらしたが、古代人はこれを克服すべく魔法の力で特定の地域に人々を移動させる女神の石像を作った。女神の石像は戦士を加護する女神をかたどったもので、古代人の魔法的な処置により、一定のルールに従ってダンジョン内の各所に設置されている。女神の石像については詳細を後述するが、通常は祭壇と対をなし、現在に至っては便利な移動手段として冒険者たちに重宝されている。
近年、このようにダンジョンが人々の新たな関心を集めるようになったきっかけは、使用していなかったダンジョン内に保管されていた物資を流通させたり、新たな資源探査のためラフ封鎖時に施されていた魔法的な封印を解除しダンジョン入りした人々が迷子になったり、モイトゥラ戦争以来、ほとんど姿を消していたモンスター発見の報告が相次いだからである。
これらのモンスターの中にはかつての魔法戦争でポウォールに協力し、人間を攻撃したものが多数含まれていることが確認された。彼らはダンジョンの外に出ようとはしなかったが、内部に侵入する人間に対しては相応の危害を加えることが判明した。
現時点では、ダンジョンを作る際に利用した魔法の力が副作用を引き起こしているものと観測されており、とりわけ周辺に居住区があるダンジョンの場合、ともすれば町の安全を脅かしかねない問題でもあるため多くの若者がダンジョンに潜り、その実体を把握しようと努めているようだ。
このようなラフのダンジョン化現象は一部の地域だけでなくエリン全域で広範囲に起こっており、一部地域の巨大なダンジョンでは出入りの規制や入口の再封印などをしているが、それによって人の流れが変わり町が衰退するといった影響も出ている。
しかし、どのような魔法の力がダンジョンを作り出し、なぜその中にモンスターが住んでいるのかなど、その具体的な実体についてはいつかエリンの人々に明かすべき問題であると、各国の統治者や学者、ドルイドたちは考えている。
3. ダンジョンの構成
では、ダンジョンはどのような構造になっているのか、ダンジョンに入る序盤の流れから見ていこう。
ダンジョンに入ってまず目にするのは、ロビーのような巨大な部屋である。(そのためか、多くの人が「ロビー」と呼んでいる)
この部屋で最も目を引くのは、壇上に立ち剣を持った女神像だが、エリンの者なら誰でもこの女神像が戦士を加護する女神、モリアンであることが分かるだろう。モリアンは戦争の三女神の中で首領のような存在であり、自分の加護を求める者には誰であれ手を差し伸べ、超人的な力と勇気を与えるという伝説がある。
この女神像は広大なダンジョンの隅々に配置されている。おそらくモイトゥラ戦争当時、ここに避難していた人々によって戦場へと向かった人々の無事を祈願して作られたものと思われる。
この女神像の前に自分の大切なものを捧げると、同じダンジョン内で別の場所にある女神像に捧げ物をした人を移動させてくれるのだが、その原理については未だ詳しく解明されていない。ダンジョンを探検する魔法使いたちも、何らかの高レベルな未知の魔法がこの場所に作用しているようだという旨の意見を述べるだけで、具体的にその魔法がどのような形で発動されているのかについては分析できていない状況である。
ともかく、ダンジョンに入りたい者は女神像にかけられている魔法によって、ダンジョン内の任意の地点に移動することになる。任意の地点とは通常、巨大な封印が施された大きな部屋の近くにある女神像で、女神の祭壇にどのような物を捧げるかによって、部屋までの道程や距離が変わるそうだ。
移動はあくまで冒険の始まりに過ぎない。他の女神像への移動が終わると、女神像に近い別の部屋へ移動できるようになり、ここから本当のダンジョン探検が始まる。ただし、途中でダンジョン探検を諦めたい場合は、この女神像の近くまで引き返せばダンジョンロビーに戻ることができる点を念頭に置いておくのがいいだろう。
4. ダンジョン内で遭遇する罠
ダンジョンは複数の石造りの部屋が回廊や門でつながっており、各石造りの部屋には遺跡や宝箱のようなものが置かれていることもある。これらは何かしらの魔法の力によって作られた罠のようで、むやみに手を出すと大変な憂き目に遭うこととなる。
では、どのような理由からかつての人間の避難所であったダンジョンにこのような罠が仕掛けられたのだろうか?
一部の学者には、このような罠自体がそもそも魔族に対する防御措置として作られたと主張する者もいる。しかし、ダンジョン探検家たちが一部のダンジョンでこのような罠によって魔族が召喚されるのを見たという報告があることから、当該主張においてはその根拠に乏しいと言えるだろう。
対して、より説得力のある見解はこのような罠やモンスターの出現がダンジョンの根幹をなす魔法力の暴走によって発生したという意見である。ダンジョンの構築が昔の魔族とのモイトゥラ戦争時代と時期を同じくしていることを考慮すれば、この見解にはかなり説得力がある
つまり、ダンジョンは戦争当時こそ魔族からの攻撃に対する避難所として作られた地下要塞であったが、戦後は人々が地下要塞を離れ地上に生活の場を築くようになったことで打ち捨てられ、ここにかけられた魔法の力が解除されぬままに長らくの時が経過した。結果、経年の影響によりダンジョンを維持していた魔法の秩序が崩壊し、ゆえに様々な問題を引き起こし、ダンジョン内にモンスターが出現し始めたのも、ダンジョンに出入りする者に危害を加えるトラップが発生したのも、このような問題と関係していると考えられる。
それでは、ダンジョン内で注意すべき多くのものの中でも――特にトラップと言っていいが――現在までよく知られているものに限定して話を進めていこう。
トラップ1 :4本の柱
ダンジョン探検時に最も多く遭遇するのが、石造りの部屋の門が固く閉まっているケースだ。ダンジョンの石造りの部屋の門はかなり重く、常人の力では到底持ち上げることができないようになっているが、このような部屋の場合、スイッチの役割をする4本の柱がそれぞれの部屋の隅に配置されている。
一見してこの柱は全て同じように見えるが、実際は内部に大きな違いがある。これらのうち、隣接する石造りの部屋や回廊につながる件の門を開くための鍵となる柱は1本だけで、残りは魔法がかけられたモンスターを召喚する役割を担う柱である。
古代人はこのような柱の配置に一定の法則を定めているのであろうが、初見の者にとってそれを正確に把握するのはさすがに無理がある。とりあえず、このような4本の柱に遭遇した場合は、4本ともをよく観察し、もしも見分けがつかなければモンスターと戦う覚悟を決めた上で好きな柱を門が開くまで叩いてみるといいだろう。
トラップ2 :ミミックと宝箱
ダンジョンを探検していると時々目にするのが、石造りの部屋いっぱいに宝箱が置かれている光景だ。これを見てすぐに目を輝かせ走っていくと、宝箱の形をした寄生体、ミミックにより大きなダメージを受けることになる。
ミミックは宝箱を溶かした後、その中に入り込み箱の中に寄生するモンスターで、自分の家に危害を加える者がいればすぐに反撃してくる。
宝物への執着ゆえに人々は主にこのミミックの噛みつきによって負傷するが、次のことを忘れてはならない。ダンジョン内部に複数の宝箱が一箇所に置かれていることはほとんどなく、例えそうだとしても、そのような宝箱を開けるにはそれなりの対価を要求されるものであるということを。
トラップ3 :宝箱の魔法トラップ
では、宝箱が1つしかなかった場合は?その場合、比較的ミミックの可能性は低い。しかし、安堵してはいけない。ここにも魔法がかかっていて、冒険者たちを困らせることも少なくないからだ。
これから説明する宝箱にかかった魔法トラップはそれらの代表的なケースだが、一見してこのような宝箱を見分ける方法はない。
この箱に仕掛けられた魔法トラップは、箱が開くと同時に周囲の門を閉めモンスターを召喚するもので、こうして召喚されたモンスターを全て倒すまで、この箱を開けた者とその一行は石造りの部屋に閉じ込められてしまう。
しかし、過度に心配する必要はない。これらのトラップは、それに見合った重要な報酬を隠すために作られたものだからだ。このトラップによって召喚されたモンスターをすべて倒すと、閉ざされた門を開ける鍵を手に入れることができる。この鍵は、それと同じ色を帯びた封印を解除するのに使われる。
もし、封印によって行く手を阻む巨大な部屋の入口を見つけたら、あなたはまずこのトラップがかけられた宝箱から探すべきだろう。
5. ダンジョンボスの部屋
上記のトラップを乗り越えれば、難なくダンジョンボスの部屋に行くことができる。ただし注意すべきだ。便宜上このような名前を付けただけで、実際にこのような表記がダンジョン内にあるわけではない。通常、女神像の力を得てダンジョンの中に入り道を探していくと、最後には太い鎖と封印、鍵などで施錠された巨大な部屋にたどり着く。これがダンジョンボスの部屋である。この部屋に入るためには、部屋の巨大な門の封印を解除しなければならない。一度その中に入ると、ダンジョンの魔法力によって作られたモンスターとの一騎打ちを覚悟しなければならない。ここで遭遇するモンスターは、ここに来る過程で遭遇したモンスターとは次元の違う強さを持つため殊更注意が必要だ。しかし、この部屋に入る者には苦難だけが待っているわけではない。たとえ辛くとも、ダンジョンボスの部屋でボスを倒せば、その区域にある宝物を持ってダンジョンを出ることができるからだ。
真の冒険者なら一度は挑戦してみる価値は十分にある。
しかし、この事実を忘れてはならない。そのためには、事前に入念な準備が必要だ。
では、どのような準備が必要なのだろうか。これについては、本書に続く次巻であるダンジョン探検ガイドの実践編で説明する。
(次の巻に続く)