- シャイロックの日記 -



[O月 - 第三サーオィン]

今日は久しぶりのサーオィンを迎え、レアと共にジェシカを連れて湖にあるムーンゲートへ釣りに出かけた。ジェシカに釣竿を握らせている間に、レアといろんな話をした。数ヶ月間仕事が忙しすぎて、ひとりで家事をこなすのが本当に大変だったと聞いた。結婚前はシルクのように滑らかだった手が、いつの間にか家事に追われてただれ、マメができて今は農夫の手のように変わっていた。私の甲斐性がないばっかりに彼女に苦労をさせているようで、いつも本当に申し訳なく思う。早く金を稼いでレアにも贅沢をさせてあげたいのだが…

家に戻る途中で、ジェシカが大きな真珠のネックレスを首に下げていることに気づいた。レアは持ち主が捜しているかもしれないから、あった場所に置いてくるよう言ったが、私はそれを止めてジェシカに持たせた。レアはどうでもいいことを心配しすぎる。もうジェシカも15歳の立派な大人の女性なのに、きれいな服を一着も買ってやれなくて心が痛む。一家の大黒柱としての力不足を痛感し、妻に、そしてジェシカに申し訳ないと思うばかりだ。来週のアルバンエイレルからは今まで以上に歯を食いしばって一生懸命働かなくては。ジェシカの結婚持参金もそろそろ用意しなければならないのに、不安だらけだ。

[O月 - 第四アルバンエイレル]

今日は騒ぎがあった。どうやらジェシカが拾った真珠のネックレスは失踪したビゴリン氏の妻、アランズ夫人の物だったらしい。学校でネックレスを見たアントーニオが偶然気づいてビゴリン氏に返却した。ビゴリン氏はジェシカに聞きたいことがあると言ってジェシカを連れていったが、夜が更けてもジェシカは帰ってこない。レアがビゴリン氏の家に行ってきたが、時間も遅いしジェシカが疲れているので一晩泊めて明日帰すと言われたそうだ。何事もなければよいのだが…。しかし、アントーニオがジェシカの潔白を証明してくれるというので安心だ。ネックレスが見つかったことでビゴリン氏の妻が見つかることを願いたい。

[O月 - 第四ベルテン] ジェシカがまだ帰ってこない。何か深刻な誤解があるようだ。ビゴリン氏はジェシカが自分の妻を殺して真珠のネックレスを奪ったと決めつけている。ジェシカは監獄に閉じ込められている。レアは最初から自分の言うとおりにあのごちゃごちゃしたネックレスをあった場所に戻していれば、何の問題もなかったはずなのに、あなたのせいでジェシカが死んでしまうと怒っている。

明日の朝一番でビゴリン氏の家へ行き、話を付けなければ。町中の人がアランズ夫人はベルファストから来た商人と駆け落ちしたと噂しているのに、ビゴリン氏だけがおかしな勘違いをしているようだ。

[O月 - 第四ヘルイン]

もう3日もジェシカの顔を見ていない。城に行ってみたが、重要な事件の容疑者なので面会できないという。レアと一緒にどうにかビゴリン氏に会ったが、“娘に強盗を教える汚らわしくて卑しい平民の親の顔など見たくない”と冷たく言われ、追い出されてしまった。レアはここ数日間の疲労と、ビゴリンの暴言にショックを受けたせいで寝込んでしまった。明日はジェシカの裁判があるそうだ。

一体…どうしてこんな信じられないことが起きてしまったのだろう。アントーニオの父親ならば、どうにかしてくれるかもしれない。明日はアントーニオに会いに行こう。

[O月 - 第四ルーナサ]

朝早く出かけてみたが、アントーニオは忙しいと言って会ってくれなかった。泣いて懇願したが、邸宅の警備兵は汚い平民のくせに高貴な方々と親しいふりをするなと、私を追い返した。

幸い、ジェシカは殺人容疑を免れた。しかし、ビゴリンの執拗な主張により、結局盗人の汚名を着せられてしまった。あのか弱い娘に…なんと鞭打ち10回という刑罰が下された。ビゴリンが兵士に大きな金貨入れを渡すのを見た。そして、その警備兵はジェシカを無慈悲に、全身の力を込めて打ち続けた。ジェシカの背の服と皮が裂け、ぐったりしてしまった。アグネスさんのところに連れていくと、幸い命に別条はないが、背中に大きな傷が残るだろうと言われた。

[x月 - 第一アルバンエルベド]

ジェシカの全身が燃えるように熱い。急いでアグネスさんを呼んだ。傷が化膿して炎症を起こし、危険な状態らしい。鞭で裂けたジェシカのか弱い背からは止めどなく膿が流れ出している。レアは自分の体も省みずに病床から起きあがった。食べることも眠ることも忘れてジェシカの傍から離れようとしない彼女のほうが心配だ。

[X月 - 第二ルーナサ]

ジェシカが死んだ。私の娘、私の命は冷たい地中に眠った。レアはまた寝込んでしまった。私には彼女の体からも生命が抜けていくのが見えるが、何もすることができない。

[X月 - 第二サーオィン]

レアはジェシカの隣に眠っている。私は一日中何もしないでぼうっと窓辺に座っていた。遠くからアントーニオが友人たちと笑い合う声が聞こえる。

明日、すべてが終わる。