月と霧の国
the Land of the Lunartic Mist



作者未詳



いつもと変わらない眩しい日差しが差し込み、優しい風が吹く午後でした。一人は危険だと村の人たちに何度も注意を受けましたが、今日は大丈夫だと思いながら鬱蒼たる森へ走って行く小柄な少年がいました。少年は友人たちがひそひそと話していたことを思い出しながら森の中央に向かっていました。

「みんなが言っていたんだ。この森に入ると僕が行きたいところにいつでも行けるって。そうすれば亡くなったママにまた会える!」

額に浮かんだ汗が頬を伝って落ちるのが感じられた頃、少年は森に入ったばかりの時より静かになっていることに気づきました。いつの間にか濃い霧が周辺を覆い、先ほど通った道も見えなくなりました。

「あれ、おかしいな。少しだけ見たらすぐ帰るつもりだったけど…ここはどこ?」

思わず言ってしまった少年の独り言から怯えている様子がうかがえました。昔から妖精たちが住んでいると知られた森で、この白くて光る霧は妖精のいたずらかもしれないと思ったからです。そんな中でも立ち込め続ける霧は一寸先も見えないほど視界を覆ってしまいました。どこを見ても霧しか見えなくてどこに進めばいいか分からない少年は不安になってゆっくり歩き出しました。

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前が見えない霧をかき分けてしばらく歩くと、霧の間から微かな日差しが差し込み、いつの間にか少年は広くて青い海の前に立っていました。

「うわ!あれが海!ママは小さい時にあんな海辺で暮らしたと言ってた!ヘヘッ、ママも僕くらいの時はあんな砂浜で遊んだのかも!」

内陸の中央に位置する小さな村で育った少年は初めて嗅ぐ海の匂いを思いっきり吸い込みました。海のしょっぱさと岩に砕ける波の音が少年の心を満たしました。

「でも、どうやって森からいきなり海まで来られたんだろう?」

海風に吹かれながら海岸に座っていた少年はふと頭をよぎる疑問で顔をしかめました。少年が出発した場所から海までは相当な距離があり、半日で辿り着ける場所ではなかったからです。

「ん…分からない!とにかく僕はママに会いに行く。絶対!」

しばらく悩んでいた少年はにっこり笑って立ち上がりました。そして目の前に広がっている白浜を再び歩き出しました。

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気がつけば再び白い霧が少年の視野を覆いました。目に見える全てが次第に白くかすんで見えて画用紙のような風景になりました。少年は突然大声で歌いながら歩きました。広くて空っぽの空間に一人でいるということを実感し、不安を振り払おうとしたのでしょう。

「君、歌が下手だね。」

透き通った小さな声が少年に話しかけてきました。びっくりしてひっくり返ってしまった少年の横に小さく光る何かが固まって近づいてきました。驚かせたことを謝っているように、少年の周りをゆっくり回りながら話し続けました。

「ごめん、実は最初から見ていたの。ここを通る人は本当に久しぶりだったから。」

「あなたは…誰?」

「私はこの霧を守っている妖精。女王様に頼まれてね!」


小さな妖精が誇らしげに胸を張り、大声で笑いました。少年は前に進みながら妖精と色んな話をしました。妖精の女王の力によって作られた白い霧の名はフェスピアダで、この霧の力で行きたい場所に行けると話してくれました。

「もちろん誰でもここを通れるわけではないよ!悪い人がこれを利用するのを女王様が許すわけがないからね!特別な魔法をかけといたのよ。フェスピアダは気まぐれで時々全然違うところに連れて行ったりするから。
テフドゥイン、霧が作り出した幻想的で虚しい空間。みんなが自分の見たい虚像だけを見てしまい、永遠に道に迷ってしまう!でも、本当に純粋で良い人ならその人が行きたがっている場所に連れて行ってくれる。」

「わあ!じゃ、僕はママに会えるね!」

「おっほう、君は良い子なの?キッキッキッ。」

「もちろん!毎日早起き早寝してるし、ママの肖像額縁も毎日拭いてるし、村の大人たちの言うこともちゃんと聞いているんだよ!」


妖精と少年はしばらく楽しそうに話しながら歩きました。やがて二人が着いた場所はあたり一面が真っ黒な、深い地下でした。

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「あれ…ここはどこ?」

「ちょっと待って。君、ママに会いたかったんじゃないの?」

「うん、会いたいよ。でも、ママはこんな地下にいるの?パパは苦しみもなくて毎日美味しい料理を食べて、楽しい音楽に溢れる素敵なところにいると言ったけど!」


少年の答えを聞いた妖精は呆れた顔でため息をつきました。それと同時に妖精の顔に浮かんだ表情は恐怖そのものでした。妖精は少年が会おうとした者がまさか死者の世界にいるとは思いもしなかったからです。

「このバカ!ここは全ての魂が集まる終着地の冥界じゃない!夜と闇を司る、恐ろしい死の王が治める場所なんだよ!こんなところに来るなんて信じられない。ここはとても危険…。」

怒った妖精の話が終わる前に、奇妙でおぞましい気配が彼女を黙らせました。とても冷たい何かが肌を這う感じがして少年は身震いしてしまいました。謎の巨大な存在の圧迫感によって顔は上げられませんでした。やがて少年は凄まじくて鋭利な冷気が心の真ん中に突き刺さるような感覚に襲われました。

「………………!」

「黙ってないでちゃんと答えてよ!君のお母さんを生き返らせるために来たのかってお聞きになっているじゃない!」


同じく怯えている小さな妖精が震えながら小さい声で返事を促しました。謎の鋭利な感覚は頭の上にいる存在が自分に質問を投げたことだと、少年はようやく気づきました。

「僕は…ただ、ママの笑顔をもう一度見たくて…それだけです。本当です!ううっ…誓います!」

それを聞いた頭の上にいる存在は何かを悩んでいるようにしばらく黙り込みました。その間、少年が感じられたのは真っ暗な闇と恐怖、そして押しつぶされそうな圧迫感だけでした。どれほど時間が経ったのでしょうか。いつの間にか震えていた手足も落ち着きを取り戻したと思った瞬間、少年は懐かしい思い出の中の会いたかった人が自分を呼んでいる声を聞きました。

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少年が夢のような冒険から帰ってきてから、かなり時間が経ちました。突然いなくなり、そして奇跡的に帰ってきた少年と話した人たちは、少年が妖精と一緒に不思議な霧を通って亡くなったお母さんに会った話を聞くと鼻で笑いました。

その中には微かな希望を抱き、少年がしたように森に向かった者もいましたが、ほとんどは強欲によって帰らぬ人となり、行きたかった場所に着いても再び家に帰る選択をした者は少年しかいませんでした。

少年も妖精の忠告と賢明なお母さんの最後の頼みがなかったらお母さんがいる世界に残ったかもしれません。結局、不思議な霧があったとされる場所は次第に忘れ去られました。