- 精霊の記憶を入れ替える -
How to Transfer Recollection of Spirit




目次

1. はじめに
2. 精霊武器の根本的な問題
3. 精霊武器の修理原理
4. 精霊移転に対する理論
5. 昏夢の精霊リキュール
6. 精霊霊体転移魔法
7. おわりに

1. はじめに

長い間熟練した戦士の手を経た武器はそれ自体が力を持つ事になる。そしてその武器に古代魔法で精霊を宿らせたものを我々は精霊武器と呼ぶ。
しかし伝説の中の強大な力を持つ精霊武器が、我々の持つこの精霊武器と同一の物なのかははっきり分からない。
いや、更にはっきり言うと、多くの話の中から現在我々が使う精霊武器が持てなかった特徴を知るなど、正確な情報を得る事は難しい。

それもそのはず、実際のところ我々は精霊についてあまり詳しく知らない。
精霊は元来どこから来たのか、消滅するとどこに行くのかについても何一つ明らかになっていない。精霊は何故武器に宿っている間にのみ記憶を持てるようになるか、いつか失うはずの記憶なのに何故より多くの事を知るために苦労するかについても分からない。
私が最初研究を始めた理由は、この疑問を解くためだった。精霊を移す魔法が分かるようになったのはその過程で得たに過ぎないが、辿り着けると確信できない真理に至る道の上で、後に追って来る後人のためにこの本を作る。

2. 精霊武器の根本的な問題

現在我々が出会って契約を結んでいる武器の精霊は周辺の物を通して知識を得ながら成長し、精霊の成長とともに精霊が宿っている武器も更に強い力を発揮する。

しかしこのような強い力が発揮されるのは、あくまでも精霊が成長した場合であり、その成長には非常に長い時間と多くの努力が必要という事を見逃さないでほしい。
実際のところ多くの人が精霊武器を成長させる事に負担を感じているが、その理由は大きく二つがある。

第一の問題は、精霊の記憶は魂ではなく武器に保存されるため、精霊が武器を離れる瞬間、今までの記憶が全部消えるという事だ。
いくら魂が宿っている武器とはいえ、その本体は現実に基づいた物であるため、長い歳月を経たり激しく使用する事で徐々に破壊されていく。
もちろん精霊武器自らがこのような損傷を修理する方法は存在するが、いくら腕の良い鍛冶屋でも失敗はするように修理過程で永久的な損失を被る事もあるし、それが積み重なると使えなくなるほど壊れる可能性がないとは限らない。
このような状況になるには相当な時間がかかる。長い歳月を経た精霊はもちろん非常に強い力を持つが、実際にその力を使用する事は不可能だ。

第二の問題は、精霊との契約は二つ以上の同時契約ができないという事。
このため、実際に使用できなくなった精霊の持ち主は、強い力を持つが効用性のない精霊とずっと一緒にいるか、既存精霊との契約を解約して力の弱い新しい精霊と契約を結ばなければならない。
つまり、効用性のない強力な武器を持ち歩くにせよ、その武器を捨てて新しい武器を作るにせよ、どの道、今までの努力が水の泡になるという事だ。
効用性のために今までの思い出を捨てるか捨てないかを選択する事が苦しいというのは二次的な選択に過ぎないが、事実上、この事だけで精霊武器を持つ事をためらう人も多い。

3. 精霊武器の修理原理

精霊はできるだけ多くの知識を得て更に完全になるために努力し、周辺のあらゆる物を自分に有利な形にして成長する。
このような性質は精霊武器の修理で最もよく現れる。

既存の精霊武器と同じ種類で、熟練度を満たした武器があるとしよう。
その武器に精霊のリキュールを塗ると霊的な領域が活性化し、熟練度を上げる過程で宿った記憶が強くなる。これは既存武器の精霊の肉体、つまり既存の武器とかなり類似した条件の武器が用意できるという事だ。

その後、精霊は該当武器を吸収しながらその構造に基づいて自分を復元する。
これはその情報で自分の能力を上げる事よりも重要な行動で、非常に自然に進行されるため、契約者が特別に何かをしてあげる必要はない。

ここで一つ疑問が生じるだろう。
一体何故このような自然な過程で永久的な損失が起こるのか?
これはこの本の目的である精霊の霊体転移に対する理論と密接に関係しているため、次の章で説明したいと思う。

4. 精霊移転に対する理論

既に説明済みだが、精霊武器が自ら修理をする事は人の怪我が治る事のように自然な事だが、修理過程で永久的な損失は起きかねない。
このような損失は修理のために用意された武器の熟練度が十分でない場合に起きるが、これはその微妙な差異が持ち主との共感を妨害するためだ。
武器が永久的に損失する事は非常に悲しい事だが、重要なのは損失が発生するという事実自体ではない。
我々が注目すべき事は、霊的存在である精霊が自分の肉体を復元する過程で永久的な損傷を負わせる原因がこの熟練度の微妙な差異である事だ。

これは精霊が自分の肉体にした武器に対して完全に認識しきれていないという証拠だ。
即ち、精霊は移される武器に込められた情報に基づいて自分に肉体を元の状態に復旧するだけで、自分の情報を完璧に記憶していて、それを復旧するのではないという事を意味する。
大げさに言うと、武器に十分慣れていないため用意された武器に不足している点が生じたか、それとも自分の損傷した部分で不足している点が生じたか、精霊にはその区別がつかないと言えるだろう。

もちろん修理が終わった後に自分の調子を見ると修理が上手くいったか分かるだろうが、その修理が終わる前には武器の精霊も自分の状態について正確に把握できない。
これの点を利用し、修理が終わる前の過程に介入して自分の存在の基盤となる武器に対する情報を捻れば、武器の形態を変える事も可能だろう。
このような考えから、精霊移転に対する理論は成り立った。

5. 昏夢の精霊リキュール

昏夢の精霊リキュールは精霊を仮死状態に陥れるポーションだ。
一見、一体どこに使えばいいのか分からないポーションに見えるが、このポーションを開発する過程には非常に奇異な発想があった。

精霊の記憶が完全に武器でのみ存在するのであれば、精霊を初めて作ったときにはまるで赤ちゃんのように何も知らない白紙のような状態でなければならない。
しかし精霊は固有の性格があって言語を習得して意志疎通が可能であり、何かについて微かに覚えている事があるような一面を見せる。
私はこのような事実を踏まえ、精霊の霊体にも記憶が残る可能性があるとの仮説を立て、長きに渡る研究の末に昏夢の精霊リキュールを作った。

特殊な魔法儀式を通してこのポーションに触れた精霊は眠りに入り、武器の耐久度が消尽して眠ってしまった時と似たような状態になる。また、持ち主との契約の紐も、武器との結合も緩くなる。
私はこのような状態になった精霊を催眠状態に陥れ、記憶を辿ってみようと試したが残念ながら失敗してしまった。これに関する話は今後別の方法で話すことにする。
重要な事実は、このように精霊を眠らせて催眠状態に陥れる事が可能だという事で、私はこの経験を通して精霊の霊体を記憶とともに別の武器に移す魔法への決定的なヒントを得る事ができた。

6. 精霊霊体転移魔法

精霊霊体転移魔法は、先ず昏夢の精霊リキュールで精霊を仮死状態に陥れる事から始まる。
そして修理とは違って既存の精霊武器に精霊のリキュールを塗り、精霊を移したい武器には精霊武器の蘇生薬を大量に塗っておく。
この時の精霊は自分の持つ力が精霊のリキュールにより非常に活性化した状態だが、強制的に眠らされているため現実を認知できなくなる。
この過熱した精神に魔法を通して、任意に作り上げた現実を認知させることができる。

精霊はこの状況を自分の肉体と同一の武器を吸収して自分を修理する事と認識させるとともに、その速度を非常に遅くする。
そしてほとんど溶けて吸収する準備ができると、作業を一旦中止し、次の過程に入る。

この過程で詠唱者は精霊の認識を捻って、新しい武器を自分の本体に、自分の本体を吸収対象に誤認させてから残りの作業を進める。
そうすると精霊は自分の肉体を溶かして新しい武器で再構成し、全ての作業が終わる。
つまり武器を吸収するために溶かす力で精霊自分の肉体の記憶も一緒に溶かし、新しい武器に定着させる方法だ。

もちろん作り上げた現実を認知しているがあくまでも精神が生きている状態の霊体は、自分を溶かす過程で致命的なダメージを負う事になる。
そしてこのようなダメージは精霊の存在自体を威嚇するほどだが、これは大量に塗られた精霊武器の蘇生薬の力で守る事ができる。
重要なのはこの際、精霊が極度に不安定な状態に陥るが、このような状態が自分自身の肉体が変化する過程で生じる違和感を乗り越えるのに役に立つという事だ。
このような違和感と霊体の損傷が、かえって自分が完全に破壊されて緊急修理をする事と誤認させるのだ。

しかしこの方法も完全なものではない。
精霊の記憶は魂が繋がっている時のみ価値を持つ、また、記憶は武器にだけ宿っているためだ。
精霊の霊体が移った瞬間、既存の武器に残った記憶は無意味なものになるが、だからといって全ての記憶を残すために精霊を完全に溶かす事はできない。
完全に溶けるという事は精霊の消滅を意味するためだ。

従って、武器の形態が残っている状態で霊体の移転を導く必要があり、この瞬間残りの武器の記憶は連結が切れるとともにその価値を失う。
ここで損失した記憶の分だけ精霊は力を失うが、万が一精霊武器に宿った記憶の部分の区別がつくのであれば精霊武器の完全な移転もできるだろう。

追加的に、霊体が移転された瞬間から吸収は中断され、本来宿っていた武器の形をした武器を一つ残す事になる。
これは精霊の霊体が抜けた後に殻だけが残り、一般の武器と同一等級になった武器であるため、精霊にあげても特別な効果は得られない。

7. おわりに

今まで説明したのが精霊移転の基本的な概念であり、精霊について十分な研究をしたのであれば、この説明に基づいていくらでも精霊を移転させる事ができるだろう。
この研究の当初の目的はこのようなものではなかったが、私はこの結果について大変満足している。
悲しい別れを経験し、関係の断絶がもたらす痛みがどれだけ大きいかは知っている。
私の作った魔法を通して他の人が長い間共にしてきた精霊との関係を持続していけるのであれば、それで十分ではなかろうか。

最後に一つだけ言い残したいが、この魔法を使う時にはくれぐれも丁寧かつ慎重に進めてほしい。
肉体から霊体を切り離す事は、一歩間違えるとその対象のみならず周辺の人にも被害を与える可能性がある、非常に危険な行動だ。