- 魚屋さんの青年の物語 -
Falc Story Sequel



作者未詳
(カブ港口伝)




磯臭い
ある騒がしい港。
賑やかな市場の通りを
体格のいいある青年が黙々と歩いていました。

ふさふさな髪の頭を掻いていた青年は
突然、独り言をつぶやきました。

"確かこの村にいると言っていたが…。"

故郷を離れてから
長い年月が経ちました。

みんなが感動する料理を
作れるまで
故郷には帰らまいと
誓った言葉が頭から離れなくて
青年は足を止める事ができませんでした。

実は一度だけ
故郷に帰ろうとしたことがありました。

ところが、ある湖で釣りをしたときに出会った、
ひげを生やしたある旅人が
釣った魚をその場で調理して
食べさせてくれたあの味がどうしても忘れられませんでした。

初めて食べる料理に一度驚き、
口の中で広がる新鮮さと
とろける風味で二度驚きました。

小さいとき、母のために
氷釣りで釣った魚で
よく作っていた料理とは
次元が違う素晴らしいものでした。

同時に、既に料理の頂点に達したと
自惚れていた自分が恥ずかしくなりました。

その日の夜、眠りにつけず
悩んでいた青年は覚悟を決めました。

"よし、明日、日が昇ったら
あの旅人に弟子にしてもらうように頼もう!"


そして、その料理方法を学び
故郷に帰って母に腕を振るう
幸せな想像を巡らせながら眠りにつきました。

しかし、その翌日
旅人は突如、姿を消しました。

そうやって旅人の行方を何ヶ月も探し続けた
青年はついに彼が暮らしているという
港町に辿り着きました。

疲れ果てていましたが
目の前の酒屋の扉を開けた瞬間
青年は嬉しさのあまり
満面の笑みを浮かべて走り出しました。

酒屋の隅に青年が探し続けていた
あの旅人がいました。

料理方法について色々聞く質問に
旅人は枯れた声で答えました。

"君の手は荒すぎる。
薄切りには向いていない。"


それを聞いた青年は泣きそうな顔で
旅人の前に土下座し
震える手で
彼の足にしがみつきました。

自分の覚悟が、必死さが
伝わることを願いながらも
断れるかもしれないという
不安がよぎって顔を上げる事ができませんでした。
それからしばらくして低い声が聞こえました。

"君の名は?"

"…ファルクと申します。"

"その根性を信じてみよう。
わしをがっかりさせんなよ。"


* * * * * * *

それから、長い年月が経ちました。

ウルラ大陸のある港町には
伝説的な手さばきを誇る
魚屋さんの青年がいたそうです。

そして今も魚屋さんは
あの青年のような巨大の弟子に
代々継がれて残っています。