-富豪イバンの話-
A Tale of Rich Ivan


イーリフ著



ある村にイバンという富豪が住んでいた。
彼はとても優しくどんな客でも歓迎をした。そんな彼を村の人達はとても尊敬している。

そんな彼の家に醜く汚らしいクルという男がやってきた。
所々髪の毛が抜け、タダレた顔のクルは門を叩きながらこう言った。

"この村にイバンという人が居ると聞いてやってきた。どんな者でも歓迎してくれると聞いた。 この家に何日か泊めてもらおうと思う。綺麗な部屋と美味しい食べ物でもてなしてくれ"

イバンの家族や召使いは汚らしい男を見るなり嫌な顔をした。そして、あんな者をもてなす必要はないと言うが、 イバンは親友でも迎えるように温かく彼を迎えた。

それからクルはイバンの家で世話になる事になった。そして彼は本来ならイバンが座るはずの上座に座り音楽を聴きながら食事をした。
他の者はみんな嫌な顔をしていたが、イバンだけは笑顔でクルと話しをしていた。

アルバンエルベドが終わり、サーオィンに変わろうとしていたある日、 クルは早朝にイバンを呼び出した。

"これから旅に出ようかと思う。今まで大変世話になった。 旅立つ前にちょっとしたお礼をしたいんだ"と彼は言った

するとイバンはこう答えた。

"何の話ですか? あなたが私の家に泊まる事で、 新しい友人ができたようでとても楽しく過ごすことができました。世話になったなんて言わないでください。 それよりも、これから旅に出られると聞いて淋しくなります。 この近くに寄ることがあったら、 必ずイバンの家を訪ねてきてください。その時はまた楽しくお酒でも飲みましょう"

その言葉を聞いた瞬間、クルの体が突然光りだした。 夜明けの風が吹くと共に、彼は背が高く髪の毛が金色をした青年の姿に変わっていた。
そして彼は目を大きく開いたイバンにこう言った。

"今までの無礼をお許しください。あなたを試す為にあの様な事をしました。私は妖精のピンといいます。 貴方の噂は妖精界まで届いています。他の妖精達と貴方がどの様な態度示すのかを賭けていました。 貴方のおかげで賭けに勝つ事ができました。しかし、賭けに敗れた妖精達が貴方に何か危害を与えるのではないかと心配してます。 そこでこれをお渡しします。

彼はイバンの手に何かを渡した。それは黄金色に輝いた三本の稲だった。

"間もなくサーオィンが始まります。この世界とあの世の境界に歪みができるできる時、 妖精達が貴方をあの世へ連れて行こうとするかもしれません。 彼らが何を言っても絶対に馬から降りてはいけません。 また、彼らが差し出す食べ物を絶対に口にしてはいけません。 そして帰り道に彼らが貴方を捕らえようとしたら、その時は先程渡した稲を1本ずつ投げてください。 そうすれば、必ず家に帰る事ができます"

そしてピンはイバンの前から姿を消してしまった。 その話を聞いたイバンの家族は、己の愚かさを知り後悔した。

サーオィンになり祭りが始まると、イバンの家には大勢の人がやってきた。 その中にはピンが言っていた妖精達もいた。酔った人達が踊るなか、 いつの間にかイバンは人間の姿に変身した妖精達と 話しをしていた。


"イバンさん、貴方の噂は良く耳にします。私達の役目は貴方の様な方を素敵な場所へ案内する事です。"
"そこは永遠な若さと幸せが手に入る所です。貴方もきっと気に入ると思います"

見慣れた森と野原を通り暗い霧の中を抜けると、 大きな川が見えてきた。
人の姿をした妖精達に導かれ、その川を渡ると、 黄金色の畑と蜂蜜が流れている小川が現れた。 蜂蜜の川を渡ると辺り一面は7色の花が咲き乱れ、美しい女性達が楽しげに遊んでいる。

そして一人の美女がイバンの前に現れた。 "ようこそ、イバン様。貴方の噂は聞いてます。"
"こちらで私達と一緒に食事でもしながら楽しくお話でもしませんか?"

するとイバンはピンが言っていた言葉を思い出し、彼女にこう答えた。

"身に余るもてなしにとても感謝します。 しかし、踊り過ぎで足が痛く馬から降りる事ができません。それに今はご飯を食べる程お腹は空いていませんから、見学だけさせてください"

イバンがそう答えると、美女はとても残念そうな顔をしたが、無理に誘う事はなかった。 代わりに高価な布で作られたチュニックをプレゼントしてくれた。 妖精達は仕方なく、他の村へイバンを連れて行く事にした。

今度はキラキラした金や銀の花々が咲き、綺麗な声の美女が楽しく歌を歌っている村を案内した。

"お待ちしておりましたイバン様。お会いする事ができて光栄です"
"私達と一緒に楽しく歌を歌いながら楽しく暮らしませんか?"

綺麗な声で心を揺さぶる美女にイバンは笑顔でこう答えた。

"身に余るもてなしにとても感謝します。 しかし、踊りすぎで足が痛く馬から降りる事ができません。 それに私は歌が大変下手で、とても人前で歌を歌うことはできません。 馬に乗りながら見物でもさせてください。"

それを聞いた女性は残念そうな顔をするが無理に誘う事はなかった。 その代わりに香りの良い花と果物が詰まった籠をプレゼントしてくれた。 イバンを連れてきた妖精達は仕方なく、次の村へ彼を連れて行く事にした。

次の村は涼しい滝と広々とした野原が広がる所で、 元気な若者達が楽しく狩りを楽しんでいた。 お酒と焼いた肉の香りがイバンを誘惑する。

"イバン様にお会いする事ができて光栄です。"
"ここで私達と一緒に狩りをした獲物の肉でも一緒に食べませんか?"

お腹を空かせたイバンは、お酒と食べ物と賑やかな雰囲気に誘われて一瞬馬から降りようとするが、 ピンの言葉を思い出し彼らに別れの挨拶をした。

彼らはとても残念そうな顔をしていたが無理に誘う事はなかった。 その代わりに丈夫な革で作られたブーツと帽子をイバンへプレゼントした。
イバンを連れてきた妖精達はそんなイバンを最初の川まで連れて行く事にした。 そして妖精達はイバンへこう言った。

"今夜は宿を用意しましたので、お休みになられては如何でしょうか? 宿にはお食事と暖かい布団を用意しています"

それを聞いたイバンは彼らにこう答えた。

"お言葉は大変ありがたいのですが、我が家で私の帰りを待つ者がいます。 これ以上遅くなると家族が心配しますので、もう帰らなければなりません。"

すると突然、今まで人間の姿に化けていた妖精達が 本来の姿を現し、こう言いました。

"賭けに負けた上に見物までさせて、そのまま家に帰れると思っているのか?"

イバンは驚き馬を走らせた。 馬は風の如く広い野原を駆け抜けた。 しかし妖精達ももの凄い速さでイバンを追いかけくる。 妖精達が馬の尾をつかもうとした瞬間、イバンはピンがくれた稲を1本投げた。 すると突然、広々とした野原に麦畑の波が押し寄せ、妖精達の追跡を塞いだのだ。 イバンはそのまま馬を走らせた。

しばらくすると麦畑を切り抜け妖精達が 稲妻の如くイバンを追いかけてくる。 イバンは再びピンがくれた稲を穂を投げた。 すると今度は広い麦畑に波が押し寄せ彼らの追跡を防いだ。

またしばらくすると妖精達が追いかけてきた。 目の前には川がある。イバンはピンがくれた最後の稲を投げた。 そうすると今度は激しい炎で黄金の麦畑が燃え上がり妖精の追跡を塞いだのだ。 イバンはそのまま馬を走らせ川を駆け抜けた。 そしてイバンは元の世界に戻る事ができたのだ。

家に戻ると今まで受け取ったプレゼントは蜃気楼の様に消えてしまった。 だが、不思議な事に花籠だけが残り、その花籠から香りが永遠に消える事はなかったと言う。
イバンは家を訪れる人達にその時の話を聞かせる事にした。 その話を目当てにイバンの家を訪ねてくる客が絶える事がなかった。